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RT #03:ものづくりネットワークを可視化せよ③<新しいつながりと、その先へ>



これからのものづくりを大田区・蒲田から発信するトークイベントシリーズ「ラウンドテーブル#03」のレポート第三回。


トークゲストには田中良典さん(furniture studio KOKKOK)、波田野哲二さん(共栄溶接)、高橋俊樹さん(東蒲機器製作所)、駒橋透さん(oxoxo/ゼロバイゼロ)の4名、コメンテーターにはラウンドテーブル#02に引き続き横浜国立大学の野原卓さん、そして@カマタのメンバーという大人数でテーブルを囲み、文字通りなラウンドテーブルとなった議論の模様をお届けします。


<KEYWORDS>

  • 7:2:1の法則

  • 町工場同士のつながり

  • 検索してもヒットしない、町工場と個人はどうつながる?

  • 言葉や文化の違いをつなぐ人を

  • 町工場コミュニケーションのヒント


 

7:2:1の法則


@カマタ連 ここからはディスカッションの時間です。本日は「ものづくりネットワークを可視化せよ」のテーマで、駒橋さんからは個人が小ロットでつくる際の壁についておっしゃっていただきましたし、高橋さん、波田野さんからはつながりの維持に取り組む仲間回しの現在についてお話しいただきました。まずはじめに、オープンファクトリーなどの非常に面白いプロジェクトを、課題意識をもって日々取り組まれている野原卓先生にコメントを頂きたいと思います。


@カマタ連勇太朗さん(左)、野原卓さん(右)

横浜国大 野原卓(以下、野原) 横浜国立大学の野原と申します。前回のラウンドテーブル#02では登壇側で大田区のクリエイティブタウンとしての在り方などをお話しさせていただきました。私自身は都市計画学が専門で、ものづくりそのものは専門ではないのですが、同時に、一般社団法人おおたクリエイティブタウンセンターという組織を何人かの仲間とやっております。

最初はものづくりとデザイナーを掛け合わせて付加価値を生んでいくようなことを考えていたのですが、現実は大変で、職人とクリエイターが一発でつながる方法はなかなかなかった。街コンが一度開催しただけではカップルを生めないのと同じで、オープンファクトリーという取り組みも何かのつながりを生むためのプラットフォームとして、いま町工場のみなさんが日々やっていることを見てもらい知ってもらう場所として開催してきました。


>> 野原さんの活動はこちらから:RT02レポート前編


野原 今日の話もそういう意味では、それぞれの立場からつながりをどう生んでいくかということだったと思います。おなかの細菌の腸内フローラを例に取ると、おなかを健康に保つためには日和見菌7割、善玉菌2割、悪玉菌1割の割合が良いというような話があって。それぞれが反応しあうチャンスがつくられているのが大事で、無理やりくっつけてもうまくいかない。(腸内フローラで言えば)核となるエサをおいて気長に待つというのが一番魅力的で健全なネットワークを生むんじゃないかなと思っています。今の大田区には、下町ボブスレーのように町工場の皆さんが生み出す魅力的なコンテンツだったり、@カマタのように新しく拠点を作る若い人たちがいたり、ネットワークの核になるきっかけはいろいろあると思っています。


町工場同士のつながり


@カマタ連 新しいプレーヤーが入ってくる状況はありながら、先ほどの駒橋さんの指摘のように、何か作りたいと思ったときに仲間回しに参加するまで1年かかるというのは、今の時代のスピード感とだいぶかけ離れていますよね。

また、高橋さんが工場間のネットワークが見えにくくなっていることに危機感をもっていて、下町ボブスレーをはじめたという事も初めて伺いました。駒橋さんのようにコラボレーションは少しずつおこっているのに、何かつながっていないなという感じがしますね。


東蒲機器製作所 高橋俊樹(以下、高橋) 1年というのは長いほうで、(普段は)時間はそこまでかからないですね。オープンファクトリーのときも、最初はYMクラブの方にお話を頂いたんですが、その親組織にあたる大森工業協会にも話をして選択をしていきました。(工場協会内での新規事業に対するコミュニケーションは円滑になりつつあるので)今はそこまで時間はかからないんじゃないかなと思います。



高橋 7:2:1というのは本当にいい例で、以前50社ほどに新しい取り組みの依頼をした時、7割は「だれかやればいいんじゃない」という感じで、2割は引き受けてくれました。そして1社はこのプロジェクトはこのやり方じゃダメだと言ってきて経過をいろいろと話し合った。


実は大田区の工場が減っているというだけではなくて、ほかの地域が技術を付け始めているというのもあるんですね。機械がよくなって地方のほうが敷地が持てるので、ものづくりにかなりお金がかけられるんですね。我々はこういう敷地なので掛けられない。このままじゃ大田区は追い抜かれるというのが現場の実感なのですが、区のほうはあぐらをかいているのであまり何も言ってこない。

最近ようやく何か言ってくるという感じで、今ちょうど現場もいろいろ工夫して、かつ区も動いているという状況なのでなにか投げていただければ返せる状態なので、面白いものができるんじゃないかなと思っております。わたしの肌感覚はそんな感じです。




検索してもヒットしない、町工場と個人はどうつながる?


 駒橋さんが拠点を大田区に構えたきっかけは何なのでしょうか?


oxoxo 駒橋透(以下、駒橋) もともと大田区のビジネスプランコンテストで優勝したのがきっかけで大田区とは繋がりができました。その後いろいろあって、2013年頃に大田区の行政の方に支援の相談をして、大田区のインキュベーション施設に入ったという流れです。プロトタイプを3Dプリンタで作っていたというのも、当時はちょうど出始めのころで、その流れに乗っかる感じでやっていました。

先程もお話したとおり、プロトタイプが10個程度なら3Dプリンタでもいいんですが数百個になるととたんに大変かつ、工場にも依頼できない。数千個からならお願いできる工場は見つかるのですが、個人には数千個を売る販路がないんですよ。つくるハードルがあり、販路のハードルがある。



野原 いまネットワークが生まれるプラットフォームづくり、ということに取り組んでいるわけですが、「検索しても大田区はヒットしない」という話のような、検索してやってきた新しい人と町工場をつなぐようなことを将来的にやりたいと思って立ち上げた組織がおおたクリエイティブタウンセンターです。なので、今回のご指摘を胸にやっていきたいなと考えています。それをやるためにはみなさん(町工場・クリエイター)の集積がないと機能しません、協力していただける方をどうやって増やしていけるかが重要かなと思っています。


@カマタ連 仕事として、そのつながりや協働を持続的なものにできるのか、という事も考えていきたい事のひとつですね。

今日は会場にアーティストの方も来てくださっていますが、作品として一つのアウトプットを極める瞬発力のある人がいると、コミュニティとしては面白いと思うんです。波田野さんはカマタ_ソーコでアーティストとコラボレーションされたご経験がありますよね、どんな感想を持たれましたか?


共栄溶接 波田野哲二(以下、波田野) @カマタの松田さんからお話しを頂いて、シンプルな作りでミリ単位の指定までいただいたので、これなら大田区の町工場でつくれるなと思いご協力しました。比率などのデザインは私達で出来ることではないので寸法の指定がなかったら厳しかったですね。



言葉や文化の違いをつなぐ人を


@カマタ連 ちょっと前のことなんですが、棚が作りたくて(蒲田で)ボルトを買いに行ったことがあるんですが、ボルト屋さんってものすごい種類を取り扱っているので、「このくらいのサイズでシルバーぽい見た目にしたい」みたいなざっくりとした注文だと、「何ミリがいいんですか?材料はなんですか?」みたいな具体的な仕様を求められて、コミュニケーションが難しいなという課題を感じました。

関鉄工所の関さん(RT01レポート後編)と対話したときにも出ましたが、つくりたい側とつくれる側のマッチングだけでは不十分で、通訳になる人がいないと難しい部分はどうしてもありますね。


@カマタ笹本 今回マチノマノマというスペースで@カマタとYMクラブの共作として内装を作ったことも、扱っている単位が建築と全然違うことがとても勉強になりました。

ビスの穴をどこにあけるのか決めてからでないと見積りが難しかったり、特殊な溶接にしてもらう事でシャープなテーブルの脚などがつくれたのですが、この溶接の性質でコンマ8ミリくらい反っちゃうかもしれないので建築の板の方で対応してほしいという依頼が溶接の直前で上がってきて「ほんとうは設計中に言ってほしかった・・」とか、建築の世界からは想定していなかったすり合わせがあったりして。ですが、受けた仕事を真摯につくることに慣れていらっしゃるので、お互い主体的に取り組めたらよりわくわくするものづくりになるだろうなと思います。


@カマタ連 個人レベルでは、やったことのある人の中には知見が溜まっていくのですかね。



@カマタ松田 僕も何度か町工場さんと仕事していますが、今の笹本さんの話のようなことは毎回感じていて。例えば建築の設計だと、設計者と施工者の間に工務店が挟まっていて異業種間のコミュニケーションを一手に引き受けてくれる。個別の製造業の場合は中間の通訳を専門にする方がいないので、いままではメーカーさんのなかにそういう仕組みが備わってたのでうまくいっていたと思うのですが、今後ものづくりが個別化したときにこの役割が専門化していくのかなと思います。


駒橋 それすっごいわかる。これ(Kvel)をつくっているときに、僕らはこのかたちがつくりたいと思ってやっているだけなのに、工場の人には「これ樹脂はABSなの?アクリルなの?ポリカーボネートなの?」って聞かれても樹脂のこと詳しくは知らなくて。向こうにとっても樹脂の指定をしてくれないと金型作れないし、見積り取れないしっていう断絶がすごくある。翻訳してくれる人はすごく欲しいですね。


波田野 町工場の仲間回しの中にもブローカーの役割をする人がいて、その人は各工場の特殊技術をわかっている。初期段階でそのブローカーに出会えると話は早いのですが、そうでない時、「ここのピッチを指定してくれないとダメ」と断るんじゃなくて、こちら(町工場側)からも歩み寄って提案していかなければいけないと思うんですね。



@カマタ松田 木工家具ではいろんな職人さんと協働した経験があるんですが、わりと調整がうまくいくようにできていて。職能的にそういう文化があるのか、それとも僕が組む人が偶々そういう人なのか、どっちなんですかね?


furniture studio KOKKOK 田中良典 木材は幅方向に1/100収縮したりとか誤差が発生しやすい材なので、それに対して職人側がそれを考慮して加工するというようなことが調整の文化になっているのかな、というのはあります。あとは、作家っぽく作る人なのか、下請けとしてつくる人なのかによってもだいぶ違うとも思います。



町工場コミュニケーションのヒント


@カマタ連 それから今日は、アートファクトリー城南島からアーティストの長坂さんにお越しいただいています。アーティストの目を通した、町工場との関係性に関してもしコメントがあればお伺いしたいのですが、いかがですか?


長坂絵夢さん ―アートファクトリー城南島を拠点に、鉄を用いた平面・立体・インスタレーションなど様々な作品を制作されているアーティスト


長坂絵夢 大田区というよりはアーティストとして何を表現できるのかなのですが、去年くりらぼ多摩川さんと町工場さんにインタビューする機会があり、工場によって加工で出る端材に違いがあるということに特殊性があると感じています。私の活動ではみなさんの技術をお借りするというより、みなさんの技術の中から出たものやコミュニケーションの方が大事で。私はわたしの知ってる鉄の話をして、みなさんはみなさんが知っている鉄の話をして、というふうにアーティストとしての立場を知ってもらったりというのも活動のひとつとしています。



長坂絵夢 アーティストがアトリエから外に出てどういう役割を果たせるか、ということはいつも考えていて、鋼材会社さんとか製鉄会社さんとか、ものをつくる流れの中にいる色々な人とつきあって作品をつくっています。その距離感はプロダクトをつくる人とだいぶ違うと思うのですが、通じない言葉とかお互い歩み寄って共有していく時間などが大事だなと思って活動しています。


野原 オープンファクトリーをやる前に仲間回しの調査をして分かったですが、仲間回しのつながりは結局、飲みいってるか、ゴルフやってるか、釣りやってるか、でできているんですね。各々の工場でのビジネスは単独でも成立しているので、一見関係なさそうなことがつながりの重要なポイントになっているんです。

BUCKLE KÔBÔさんが突然「フェスやります!」と始めたときには大丈夫かな・・と思っていたんですが、結果みんなノリノリで。これは事前に企画書をつくって持って行くようなやりとりでは決して生まれないつながりだなと思ったんです。そういう一見突拍子もなかったり、非効率に見える対話が実は最短距離みたいなことがあって、しかもそれは都心だとやりやすい。地方都市は大きな敷地をもって効率的にやることはできるけど、こういう関係性を育んでいくには大田区のような都心が適しているのではないかなと思います。



 

議論が尽きないラウンドテーブルとなった今回。さまざまな立場からの言葉が飛び交いましたが、ネットワークを支えるコミュニケーションに対して、誰もが試行錯誤の中で「なんとかしたい」という思いを抱えていることが伝わってきました。


その中で、@カマタ連さんが「今あるネットワークの潜在的な魅力を空間化できないかなと思っています」と高架下のプロジェクトへの意気込みを語っていたのが印象的でした。きっとその場所は、今回話題に登ったコミュニケーションを、もっともっと日常的なものへとしてくれそうな気がしたからです。


海外に行ってすぐには聞き取れなかった外国語が、しばらく言葉のシャワーを浴びているうちに、段々と聞き取れるようになっていく。という経験をしたことはありませんか?人やいる場所によってものづくりの言葉が違っても、その言葉を理解していく為の環境づくりはきっとできるはず。テーブルを囲んだ皆さんの視線は同じ方向を向いていると感じました。

次々回ラウンドテーブル「RT#05:モノづくりプラットフォームの現在」は、@カマタ笹本さんから紹介のあった、カマタの新施設「マチノマ大森・マチノマノマ」が会場です。エントランスの壁にも注目してくださいね〜!







テキスト:藤末萌、写真:池ノ谷侑花(ゆかい)

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