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  • Moe Fujisue

RT #02:わたし的カマタ、その地図を作る <前編>




2018年9月29日、2回目の「ラウンドテーブル」が開催されました。会場は、蒲田が誇る天然温泉「蒲田温泉」の大広間。いつでも温泉に入れるというシチュエーション(館内着を来ている人もちらほら・・)とザ・宴会場な設えに、思わずくつろいでしまいます。心はリラックスしながらも、内容はいたってマジメに、蒲田の現在を垣間見るものになりました。


2人のゲストからお話を伺うだけでなく、参加者の方たちとともにワークショップで手を動かす、盛り沢山な「RT #02:わたし的カマタ、その地図を作る」のもようをお届けします。


<KEYWORDS>

  • まちの活気や活動が見えない状態

  • オープンファクトリーという取り組み

  • 創造、生活、技術を軸にしたクリエイティブタウン構想

  • 人と触れ合う場所をつくりながら温泉を維持できたら


 

今回のラウンドテーブルでは、ヒトやモノや場所をネットワーク化しながら街を魅力的にしている実践者のおふたり、横浜国立大学の野原卓さんとデザイナーの小田雄太さんがゲストとして登場。まずは野原さんから、いま携わっているプロジェクトについてお話し頂きました。


まちの活気や活動が見えない状態


野原卓さん ―横浜国立大学大学院准教授、一般社団法人おおたクリエイティブタウンセンター センター長

横浜国立大学で都市計画を専門としている野原さん。2012年に始まった「おおたオープンファクトリー」の仕掛け人です。

大田区のものづくりとの出会いは10年ほど前、大田区の観光協会から「産業観光をとりいれたまちづくり」の相談があったことがきっかけだったそう。大田区には最盛期で9000程、現在でも3500程もの町工場が点在するため、産業の街の魅力としてをそれらを発信することを考え始めたと言います。


「町工場がたくさんある街は、住宅地としては工場の騒音や臭いといった問題がつきまとうのですが、その点は大田区の町工場は周囲に気を使っているというか・・扉を閉めて、防音にも配慮して操業しているので、近所の人も工場だとは気づかない。何をしているのか知らない、という事が起こっています。」というお話は、さまざまな気遣いの結果、地域の人が地域の活動に触れる機会が減ってしまうという状況に、なんとも歯がゆい気持ちになってしまいました。



オープンファクトリーという取り組み


そこで生まれたアイデアが「おおたオープンファクトリー」。点在する町工場をある一日限定で一斉に無料公開するイベントです。沢山の人に訪れてもらうため、あえてツアー形式にはせず自由に工場を訪れてもらい、職人さんが自ら自分の仕事について紹介するというこの取り組み、2012年のスタートから徐々に参加工場数が増え、今年もたくさんの工場が一般の方を迎え入れたそうですよ。この取組みはいま、全国のものづくりの街に広がり、新潟・燕三条でも地域を上げて取り組んでいるオープンファクトリーが特に有名だそうです。「工場萌え」の流行は知っていましたが、そこからもっと踏み込んだ「モノづくり観光」は、見て終わりではなく多くの学びと出会いを作る、産業観光の進化系のように思えました。




そして、「くりらぼ多摩川」という小さな空き工場を改修してつくったコミュニティスペースの運営では、地域の人や職人さんが集まれる場を作ったそうです。

「夜は『町工BAR』といってお酒を飲みながら職人さんの話が聞けたり、子供たちがものづくりを理解できるワークショップを企画するなど、多様な取り組みでネットワークがつながってきています。これらの輪が上手く重なり合う場所が生まれたらいいなと思います。」

年に一度のイベント「おおたオープンファクトリー」と日常的に集まれる場づくり「くりらぼ多摩川」の両面から、町工場・ものづくり文化が集積する大田区の魅力を発信しているとのこと。



創造、生活、技術を軸にしたクリエイティブタウン構想


野原さんは大学での活動以外にも、「一般社団法人おおたクリエイティブタウンセンター」という法人を立ち上げ、センター長として活動されています。「技術と生活と創造」をテーマに、継承が危ぶまれるものづくり技術と増えつつある大田区住人・大田区在住クリエイターを橋渡しすることで新しい価値づくりを目指しているそう。




戦前の歴史を振り返ると、大田区にはエレベーターの東洋オーチス、クリーニングの白洋舎、タイプライターの黒澤商店といった舶来の最新技術が集積し、工場があり、社宅があり、保育園や公園といった働く人とその家族を支える環境がどんどん作られるという、当時最先端の工場村ができていたそうです。

現在の大田区は「西の田園調布から、寺社の多い池上、商店街、工場地帯、そして東の羽田空港まで多種多様、フルセットある街。」と野原さんが表現するように、必ずしも工場・ものづくりに関わっている人たちだけでなく沢山の生活者がいる、多様性に富んだ場所になっています。そして、その利便性の高さもあって区の人口も住宅も増え続けているとのこと。


ここ5年程でそんな街に@カマタをはじめとしたクリエイターが集まってきている事も推進力となり、「創造」「生活」「技術」を足し合わせることで大田区のポテンシャルを引き出す「大田クリエイティブタウン構想」を着想したそうです。


大田クリエイティブタウン構想 総合戦略

「私自身はものづくりの人ではないですが、外の目からものづくりにアプローチすることで、今までとは違う視点から考えていきたいと思っています。(大田クリエイティブタウン構想の図の)オレンジは既にやったことで、緑はこれからやりたいなと思っていることです。こういう拠点がたくさんできて矢印がたくさん生まれると、面白いつながりができるのではないかなと。最初は少ない人数で始めましたが、今はいろんな方がまちの中でクリエイティブな活動をされています。ぜひ皆で協力しながらネットワークを生み出せたらなと思います。」

と、ものづくりを起点としたネットワークに期待を寄せました。


ものづくりがものづくりをしない人までをも巻き込んだ時、どんな風景が生まれるのだろう?と思わずにはいられません。これまでのラウンドテーブルでは、「つくる人達」の話を多く聞いてきましたが、その人達を含む「生活している人達」への眼差しが強く伺えるお話でした。



人と触れ合う場所をつくりながら温泉を維持できたら


蒲田温泉オーナー島雪江さん

ちなみに、今回会場となった蒲田温泉は、昭和12年創業の老舗。島さんの先代はこのエリアで浴場建築専門の棟梁をされていたそう。戦災により一帯は焼けてしまいましたが、戦後お風呂屋さんとしての経営を再開し、昭和61年に現在の建物になりました。ちょうどその頃は、公衆浴場が減り始めた時代。「お風呂だけだと衰退していく一方ですので、なにか皆さんと触れ合う場所をつくりながら温泉を維持できたらいいなと思い、こういう形になりました。」と、大広間を作った理由をお話し頂きました。


蒲田温泉は公衆浴場でありながらも、入浴チケットは一日中有効なので、夜中1時まで何度も入ることができます。「ビール瓶の色に近い感じ、コーラよりも濃い」と島さんが表現する特徴ある泉質も、この場所ならではです。すぐそばに温泉がある、と思うだけでなんだか豊かな気持ちになるのは、私だけでしょうか・・


大田区がモダンな工場村だった頃から現在まで、まちの変遷を見守ってきた蒲田温泉。工場村の時代は働く人と家族を支えるために様々な施設ができたという野原さんのプレゼンテーションによって、現代でもこの場所に住む人・働く人のQOLをぐっと上げる大切な公共空間になっているのだと気づきました。戦前は工場経営者がしつらえていただろう「快適に住むため」の施設整備は、蒲田に住むクリエイティブな人達が自らの手で「クリエイターにとっても快適な居場所を作る」ことにアップデートされているのではないかなあと、想像を広げてしまいました。


レポート後編ではもうひとりのゲスト小田雄太さんから、まちづくりやエリアブランディングのお仕事を通じて培った、エリア分析・戦略・実践について事例をもとにお話を伺います。






テキスト:藤末萌、写真:川瀬一絵(ゆかい)

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