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RT #02:わたし的カマタ、その地図を作る <後編>


前編に引き続き、トークイベント「RT #02:わたし的カマタ、その地図を作る」の様子をレポートする今回。

大田区をフィールドに、つくる人と生活する人のクリエイティビティの橋渡しにチャレンジしている野原卓さんのプレゼンテーションのあとは、日本各地でまちづくりを展開するデザイナーの小田雄太さんのお話が続きます。また、後半では一歩踏み込み、それぞれのカマタ像を共有し合う、蒲田の「私的地図」をつくるワークショップもおこないましたよ。


<KEYWORDS>


  • 半径500mのクリエイティブな自治区

  • 空き家・空き店舗をクリエイターのための空間へ

  • いかに人的資本をエリアに集めるか?

  • 地図から読み解いて、立てる戦略

  • みんなで地図をつくろう!



 

半径500mのクリエイティブな自治区


小田雄太さん ―デザイナー、アートディレクター、COMPOUND inc.代表、まちづクリエイティブ取締役

「クリエイティブな自治区をつくろう。」というビジョンとともに「つづく世界をつくる。」というミッションを掲げたまちづクリエイティブは2010年、松戸にて設立。小田さんは2013年から参画し、企業設計とクリエイティブを担当されてきたそうです。


まちづクリエイティブが手がける事業は全国にいくつかありますが、その最初のプロジェクトがJR松戸駅周辺のプロジェクトMAD Cityでした。


「松戸市の人口は48万人。かつては水戸街道の松戸宿という宿場町だったエリア半径500mの範囲の圏内がMADCityです。(松戸市に対する)MAD Cityの面積は1.3%、人口にすると10,000人という非常に小さなエリアを指定してまちづくりをはじめたところから始まります。」


この「500m」という考え方と、旧道によって形成されたエリアにはこだわりがあるそうで、「駅や広い幹線道路の向こう側ってなかなか行かないんですよ。旧道を新しい道路や線路が横切ると、もともとあった文化がそこで止まってしまうんです。」と話します。


実は小田さん、プレゼンテーションの冒頭で、蒲田周辺の地図に現れるちょうど500m程の長さの産業道路、京急線、環八に囲まれた三角形を「とてもいい三角形だということをここで断言しておきます」とすごく褒めていたのです。最初は??となっていた客席ですが、小田さんが培ってきたまちづくりを考える際の着眼点は、地図上の500mのスケールと旧道・鉄道で区切られる三角形を探す事から始まる聞いて、思わずびっくり。ぴったりハマっていますね。



空き家・空き店舗をクリエイターのための空間へ


MAD Cityでは基本的に空き家と空き店舗の利活用、サブリース(一括借上げをして入居者に転貸すること)をメインに行っているそう。一番最初に借りた築100年の旧原田米店をアーティスト・イン・レジデンスにしたことを皮切りに、MADマンション15部屋、いろどりマンション14部屋等の集合住宅賃貸や、元ラブホテルの建物を活用したオフィス賃貸&アーティスト・イン・レジデンスを展開。大家さんから原状復帰なしの了解をとり、古い部屋を入居者が自分の住みやすいように作り変え、そのまま退去できるという仕組みを作ったといいます。


「取り扱い物件は70軒くらい。90%程の物件は改装可能です。そして53軒はサブリースです。利用方法としては居住が70%程で、あとは自分のため、仕事のために使っている人が多いんです。実は松戸って、表参道まで電車で40分と立地がよく、都内で活躍する人が松戸に住むことも多くて。現状、延べ誘致人数が208人、現在の入居者数が137人。これがいわゆるMAD Cityとして入居されている人達です。」とのこと。一括借上げしたマンションに入居者なら誰でも使える共有部屋を作ったり、リノベーションのための工具貸出やワークショップなど、MAD Cityに暮らす人達が豊かに創造するためのバックアップ体制も整えているそう。




いかに人的資本をエリアに集めるか?


「そもそも僕たちがビジネスモデルの参考にしたものに、オランダのクリエイティブシティ施策というものがありました。」これは、1990年代にもともとオランダにいたクリエイティブ人材が国外に流出しオランダの産業が空洞化してしまったことをきっかけに、アーティストやデザインの力を活用して再興をはかる国策のことだそうで、この施策によってオランダは今のとおり国力を取り戻したのだとか。

「アーティストは普通の人が嫌がるただの廃屋を廃屋として見ない。場所を読み替える力があるのでどんどん自分たちの住み心地のいい場所に変えていきます。そうするとデザイナーやプログラマーが周辺にあつまる。次にカフェ、雑貨屋、ショップ、起業層があつまる。最後に代理店とか金融系とか知識産業層が集まってきます。」と、まちづくりの中心にアーティストを据えた際の発展の仕方を説明。




「今のMad Cityはショップ、起業層が集まるところまでは来てます。知識産業層まで来ると、実はどんどんアーティストが抜けていくんですね。これはジェントリフィケーションといいます。」ジェントリフィケーションとは、アーティストたちの活動によってエリアの不動産価値が上がり、街に資本が集まりすぎることでそれまでの雰囲気が失われ、もともとの居住者たちが住んでいられなくなってしまう現象のこと。「一時的には潤うんですけどロングテールで見ると難しいですね。ドイツやアメリカでは色々なところでジェントリフィケーションが起きていて問題になっています。僕らの大きなテーマとしては、『いかに人的資本をエリアに集めるか』と『いかにして流出を防ぐか』ということを意識してやっています。」


地図から読み解いて、立てる戦略


小田さんが所属するまちづクリエイティブは松戸MAD Cityのほかにも、JR埼京線沿線の「SAIKYO DIALOGUE LINE」や、佐賀県武雄市での「TAKEO MABOROSHI TERMINAL」といったエリアブランディングを手がけているとのこと。個人の会社COMPOUND inc.では、インキュベーション施設「100BANCH」というPanasonicの100周年事業をPanasonic・loftworkと協働してコンセプト設計から携わったそう。こちらは渋谷駅新南口に2017年オープンした新しい場所で、話題になった事でご存知の方も多いのでは。



ここにも小田さん独自の地図の読み解き方があるそうです。


「渋谷駅を中心に明治通りと246号線青山通りでで十字に切ってみます。すると、左上がセンター街などのある若者文化のエリア、表参道に続く右上は商業やファッションのエリア、左下は南平台から代官山に向かうビジネスと食、生活文化のエリア。だとしたときに、100BANCHのできる新南口エリアがなにかというとあまり文化のにおいがしないオフィスビルが多いところなんですね。これは未来視点で言い換えると中長期的に持続可能な視点を持てるのではないかという推論を立てました。」



もともとアンテナメーカーの工場だった建物を活用したこの場所は、1階がレストラン、2階が施設の核となるコワーキングスペース、3階がイベントスペースとなっています。コワーキングスペースには渋谷という場所性、現在性にインスピレーションを携えた若者がプロジェクトを持ち込む形で企画が始まり、各チームに有識者によるメンターをつけることでサポートしているそう。


「Panasonicには創業者の松下幸之助が唱えた『水道哲学』という経営哲学があり、250年先を見据えるという壮大な計画なんです。100BANCHは100周年事業ということで、次の100年の未来を豊かにしていくために100個のプロジェクトをつくったりしています。現在は30チーム程あり、非常に活気のある所に育っています。」


さらには、各プロジェクトに携わる人達が100BANCHの外にまでアウトリーチできるよう、ジャーナルやイベント等でその存在を伝える役割も担っているのだとか。



小田さんの言葉を借りると、「(渋谷の空白地帯で)発射台のように100BANCHが機能する」ことでそこに集まる人達の活動や情報が発信されると、また新たな人達、新しいプロジェクトがあつまり相乗効果が生まれていくのだろうな、ということが想像できました。地図を読み解く俯瞰的な視点から、その場に集まる人や活動に対応するクローズアップされた視点まで、様々なチューニングをもつ小田さんならではのお話でした。



みんなで地図をつくろう!


後半のワークショップでは、@カマタのモデレーションのもと、参加者の皆さんそれぞれの「蒲田のよく行くところ」「蒲田のおすすめの場所」を移動ルートと移動手段を含めて地図に描き込み、一枚一枚スキャンして重ね合わせることで、参加者が普段日常的に使っている「カマタ」を可視化してみました。



書き込みが終わったら、地図をパソコンに取り込み、重ね合わせます。




そうして完成した地図はこちら!



30ほどの地図を重ね合わせると、地図全体にまんべんなく「よく行くところ」「おすすめの場所」がプロットされていることがわかります。その中でも点が密集している「池上付近」や、「川沿い・水辺」「銭湯」といった憩いの場に注目が集まりました。反対に、来春新しい「ものづくり施設」ができ、@カマタも拠点とする予定の京急線大森町-梅屋敷駅付近には点が少ないことも分かってきました。


小田さんは地図を眺めながら「やはり生活動線は沿線に集中するんですね。例えば@カマタがここ(京急線大森町-梅屋敷)で活動するときに、いま沢山点が打たれている場所からいきなり『来てね』とするのではなく、緩衝地帯のような場所をいくつか設けるとうまく機能しそうな感じがします。」とコメント。連さんも「マークの付いているところより、付いていないところを集中して調査したほうが面白いかもしれないですね。」と浮かび上がってきた余白の地域への興味をのぞかせました。




最後に、参加して頂いた皆さんともに記念撮影を。トークにワークショップにと盛り沢山なイベントとなった今回の「わたし的カマタ、その地図を作る」。ご参加いただきありがとうございました!






テキスト:藤末萌、写真:川瀬一絵(ゆかい)

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