これからのものづくりを大田区・蒲田から発信するトークイベントシリーズ「ラウンドテーブル#03」のレポート第二回。
町工場文化を知った第一回のあとは、ここ数年で大田区内に拠点を移し、ものづくりをする田中良典さん(furniture studio KOKKOK)、駒橋透さん(oxoxo/ゼロバイゼロ)のお話が続きます。
同じく大田区蒲田でコミュニティ拠点を運営するクリエイターコレクティブ@カマタのメンバーから、最近のニュースも発表されました。近年蒲田を中心に活発な、町工場としてではなくでものづくりを行なう「新しい人」達はどんな活動をしているのでしょうか。
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この時代だからこその木材
仲間回しに入るまでの紆余曲折
「新しい人」が仲間回しに入ってみたら
この時代だからこその木材
「日本の2/3は森林で、森林率はスウェーデンについで世界2番目に高い。しかし、こんな状況の中で日本の木材はあまり使われていないんです。」
と話す田中さんは、もともとは家具のデザインを志し学ぶうちに、自ら作ることの魅力にめざめ家具の製作を学んだ家具職人の方です。岡山県の西粟倉村で木工の仕事をしたのち、2016年に自身の工房を開設。国産木材を使ったオーダーメイド家具製作や店舗・オフィスのための什器製作、家具のリペアを手がけています。
国産材が使われいないというこの状況、戦後日本の拡大造林政策のなかで当時高級材料だったスギやヒノキが大量に植樹された末におこっているのだとか。
「木は植えてから材料として使えるようになるまでに50年かかるんです。だから植えた人にとっては利益はなく、子孫のためだけを思って植えた。ただその後、海外からの材が安く入ってくるようになったりと時代が変わってしまい、ようやく植えた木が伐採できるようになっても余ってしまっている。言い換えれば、この時代だからこそふんだんに使える材料だとも言えて、しかも先祖の思いがこもった尊い材料でもあるので使っていきたいなと思っています。」
と、国産材へのこだわりを話す田中さん。2016年の独立後は、大田区内の町工場2階に工房をかまえ、活動されています。最近のお仕事では、「CONSENTABLE」と「モクタンカン」とのコラボレーションプロダクトの製作や、デジタルファブリケーション技術を活用した建築テック系スタートアップVUILDのプロジェクトに参画したり等、木材を接点として様々な協働を行っていることがわかりました。
神奈川県唯一の林業地山北町では、近年アカネトラカミキリによる木材の虫害が問題になっているのだとか。VUILDでのプロジェクトでは、伐採した木材をすべてスキャンし虫食いを避けた形状にカットすることで世界に一つしか無い、ユニークな形状の家具づくりを目指しているそうです。伐採しても3000円の値しかつかない木材から、ファブリケーションの力を借りて、何倍も価値のある家具を作り出していこう、という夢のふくらむお話でした。
田中さんにとっても
「森に対する問題意識は似ているのにアウトプットや展開の仕方に圧倒的に差があり、技術面や周囲の多様な視点が今後のものづくりに役立つのではないか」
とVUILDと協働する事への期待があるそう。
仲間回しに入るまでの紆余曲折
oxoxo(ゼロバイゼロ)の空間設計を担当している駒橋さん。ソフトウェアエンジニアとハードウェアエンジニアの3人組で活動されているそうです。ゼロバイゼロ=容積ゼロのおもちゃ箱、という意味を持つチーム名で、水や光の現象を誰でも楽しめるプロダクトやインスタレーション作品を手がけています。
神戸ビエンナーレでインスタレーション作品を発表したことをきっかけに、渋谷ストリームのこけら落としイベントでの作品出展や、大阪大学が開発した新技術を使った光のプロダクトをミラノサローネで発表するなど、技術と楽しさを併せ持つ作品を作るクリエイター集団です。
この日はoxoxoで開発したKvelという照明装置を持ってきていただきました。
「たくさんの人に光の美しさなどを気軽に体験してもらいたいと思って、ライトを中心とした製品を探り探り作っています。今日持ってきているKvelは音に反応するキャンドルライトなんです。環境のノイズを拾ってロウソクのように明滅します。このプロトタイプを蒲田の町工場さんにご協力いただいて進めていました。」
Kvel ウェブサイト:http://oxoxo.me/kvel/
現在販売も行っているこの製品の開発には、たくさんの紆余曲折があったのだとか。特に外形を作る過程では、3Dプリンタでの試作を10個ほど作ったのち、プロトタイプとして100個作る際に大きな壁を感じたのだそうです。3Dプリンタは自由自在に成形を行うことはできますが、一つ一つを作るにはとても時間がかかります。100個の試作はとてもできない、ということで頼める業者を探し始めたそうですが・・
「ここでみなさんの課題意識と重なるのですが、『金型 小ロット 短納期』などで検索しても大田区は出てこないんですね。誰に何を頼めるのかも分からなくて、それも少ない数をお願いできる先がなかなか見つからなかったんです。」と当時の状況を話しました。
ものづくりの過程で、数個の試作であれば3Dプリンターが活躍、万単位のロットを目指すプロトタイピングなら工場でできる。ですが、その間ににある数百程度のボリュームにほとんど誰も対応していない、と駒橋さんは指摘します。
「最終的にKvelを1300個生産するときには、様々な業者さんに入っていただいて、ここは柏真空というスパッタリング(乾式メッキ)屋さん、金物はマレーシアの金物工場、ケーシングのばねの針金加工は大田区の工場に頼んだという感じでなんとか出来上がりましたが、すり合わせがすごく大変だったんです。例えばこのRTのような場で声を掛ければ、やるやらないは別にして(近いエリアや文化圏の中で)加工できる人は見つかると思うのですが、僕たちは大田区の仲間回しに入れていただくまでに1年もかかってしまいました。」
と身をもって体感した町工場の輪へ新規エントリーすることの難しさについて、切実なコメントを残しました。
今回のラウンドテーブルでは、@カマタから新たな発表がありました。、ひとつは「カマタ_ソーコ season 2」開始のお知らせです。彼らはこれまでに、
空き地や路地のような‘まちの隙間’をつなぎ合わせ公共空間を作る「カマタ_クーチ」
ShopBotを導入した工房兼シェアオフィス兼イベントスペースの「カマタ_ブリッヂ」
空き倉庫を展示空間として活用し、アーティストと工場技術のコラボを実現してきた「カマタ_ソーコ」
といった、クリエイティブな不動産活用と地域資源の掘り起こしが同時並行して起こるプロジェクトを手がけてきました。今回、「カマタ_ソーコ」の活動が倉庫から飛び出し、工場の町蒲田全体をフィールドに旅するプロジェクトとしてリニューアルするとのこと。これまでの詳しい活動はアーカイブ・ウェブサイトにて見ることができますよ、これからどんな展開になっていくのか、楽しみです!
「新しい人」が仲間回しに入ってみたら
また、もうひとつのニュースとして、同じく@カマタメンバーでありカマタ_ブリッヂに設計事務所を構える笹本直裕さんからは、@カマタとYMクラブが協働した作品の紹介もありました。
マチノマ大森という2018年11月にオープンしたショッピングモールのエントランスにある象徴的な壁を「地域のメディアになりたい」という思いで作ったそうですよ。工場同士の技術の重ね合わせ「仲間回し」を駆使して、4社の町工場さんに金属加工を、木部を@カマタのデジタルファブリケーション工房で製作し組み合わせたという大作です。
レポート後編では、レポート①②でご紹介した様々な視点をもつ皆さんの議論のもようをお届けします。
テキスト:藤末萌、写真:池ノ谷侑花(ゆかい)
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